デザインにできること「#2 デザインという言葉」

前回は初回ということで、デザインに出来る事を見てみました。

今回はデザインという言葉について考えてみます。

#2 「デザイン」という言葉

デザインという言葉が現在のような意味で使われ出したのは産業革命以降と言われています。大量生産が始まってからです。
ですが、デザインそのものはパルテノン神殿やピラミッドをみれば、紀元前何千年からはっきりした形であり、もっと以前の石器や土器にそのルーツは十分見て取れます。

目的のために意図をもって造形をする。
これは紛れもなくデザインです。

ただ、当時の人々はそれを「デザイン」と思って仕事はしていなかったと思います。ただ目的のために、機能のために、祭祀のために、威厳のために、権威のために、神の祝福を受けるために作っていたのだと思います。

それが、産業革命になると、モノづくりの仕組みが変わってきます。
それまでは一つ一つ手作りだったものが、大量に生産し、それを一般市民が大量に消費していくようになります。

また活版印刷などで紙媒体のコストも変わってきます。

大衆文化の発展と共に、看板やポスターも発展していきます。

その過程で、専業としてのデザイナーが生まれ、出版や広告業といった情報をあつかうビジネスも発展していきます。

やがてそれはテレビやラジオにつながり、メディアと言われるものになっていきます。

そのような過程があるため、いわゆるデザイナーの仕事は大量生産するものの費用対効果を考慮しながら意匠を作る者という、現在一般で思われているであろう定義になっていきます。

ヒット商品をデザインしたデザイナーや、売り上げに貢献した広告を作ったデザイナー、価格破壊をするイノベーションを考えたデザイナーがすごいデザイナーと言われるようになります。

やがてそんな消費社会も成熟・・・というか爆発的に成長していく生産力は、あっという間に人類が消費しきれないくらいのものを作れるようになってしまいます。

モノが飽和して、少なくとも量的には満たされてしまいました。
そうなると提供する製品やサービスの品質やクオリティと共に、企業という存在の社会的な意義も問われるようになってきました。

かつてなら単に貿易会社、自動車メーカー、銀行、食品会社でよかったのですが、20世紀半ばにはどんな企業であるかを表現するようになっていきます。

デザイン的にはCI(コーポレートアイデンティティー)とか呼ばれるものです。

企業の存在価値をみずから定義し「デザイン」するようになります。

今ならもう少し平たくブランディングと言っていいと思います。少し整理しますと、歴史的には「デザイン」と意識されていなかったものが大量生産とともに業となり、当初は有形のもののデザインばかりでしたが、やがて企業の存在意義と言った無形のものへとデザインの領域は広がっていきます。

「デザイン思考」「デザイン経営」

近年ではこの流れのなかからビジネス的になニュアンスの強い言葉も生まれます。皆さんも聞いたことがあると思いますが、「デザイン思考」や「デザイン経営」です。

無形のものへと広がった「デザイン」の考え方を、ビジネスに生かそうというもので、デザイン思考は90年代にアメリカで誕生したフレームワークで、デザイン経営については2018年に日本の経産省が知財と絡めてもっとデザインを活用しようとそんなことを言いだしました。

いずれも従来のプロダクトであったりファッションであったりグラフィックであったりと言った、形あるものを作るデザインではなく、概念や考え方、課題解決の手法として「デザイン」という言葉が使われ出しました。

もともとデザインという言葉の意味としてあった「設計」というニュアンスからは遠くないのですが、我々の日常語としての「デザイン」の語彙としては、もっぱら実体のあるものの意匠を指す言葉と捉えている人が多いのではないでしょうか。

いま「デザイン」を考えていると誰かが言ったときに、何か形あるものを考えているのであって、けして課題解決の道筋を考えているとは思わないでしょう。

ユニクロなどの仕事で著名なデザイナーの佐藤可士和氏は「意味のデザイン」という言葉を使っています。企業ブランドをデザインすることはすなわち、企業の存在する意味、活動する意味、それに関わる人々が得られる価値があるとして、その価値を得る意味・・・といった具合に、概念をデザインするというニュアンスで使われています。

私も「デザイン」が経営にとって重要な概念になりうるとは思っていますが、しかし、用語としての「デザイン」は少し混乱してしまっているように思えます。

学術的な意味でのデザインと、一般的なニュアンスのデザインには乖離がありますし、やはり定義があいまいで混乱して用いられているという印象です。

たとえば「デザイン経営」と銘打った企画でありながら、その内容はデザイナーと一緒に商品化逸発みたいな従来通りの有形物ありきのデザインの話であったりします。

ちなみに経済産業省のデザイン宣言では「デザイン経営」のための具体的取組として以下のようなものがあげられていました。

  1. デザイン責任者(CDO,CCO,CXO等)の経営チームへの参画
  2. 事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画
  3. 「デザイン経営」の推進組織の設置
  4. デザイン手法による顧客の潜在ニーズの発見
  5. アジャイル型開発プロセスの実施
  6. 採用および人材の育成
  7. デザインの結果指標・プロセス指標の設計を工夫

ここでも、デザインを経営に取り入れればよい結果が得られるという捉え方で、デザインという言葉に対する定義そのものへの関心は薄いように見受けられます。おそらく、「デザイン経営という意味」のデザインを十分議論するような空気ではなかったのだと思います。

しかし、デザイナーとしては、その前提条件にはこだわりたいです。我々もまた「デザイン」の「意味のデザイン」をしなければならないのだと思います。

というわけで、引き続き「デザイン」の意味を考えていきたいと思います。

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